film.

だれも知らないまちへふたりで

私が作りました #2

「……どちら様ですか?」
 プロポーズから数十秒の沈黙ののち、なんとかひねり出したのは、蚊の鳴くような声でまっとうな疑問。
「どちら様、そうだな……」少し考えて、「一番わかりやすい形で答えるなら、エンジニアかな」
「エンジニア?」
「そう、エンジニア。お前らの。いや正確には日本人の、だな」


 お前らのって、どういうことだ?
「混乱していると思うが、お前ら人間や、そもそもこの地球自体は、俺たちの世界で作られた世界だってことだ」
 突拍子もないことを起き抜けに次々と言われても何も理解ができない。この世界が仮想空間なんて、マトリックスじゃないんだから。
「問題ない、お前は『それが受け入れられるように』作られている」
「は?」
 終始意味不明なことを言い続けているが、この男の顔はいたって真面目である。特別整っているというわけではないが、酷い顔というわけでもなく、どこにでもいそうな並の日本人という顔。肩幅や身長も中の中というにふさわしい。日本人男性の平均を集めたような男だ。
 ただ、着ているものはどう考えてもおかしく、見たことのない色のスーツに梯子のような形をしたネクタイを締めている。そのアンバランスさがこの男の異様さを引き立てている。どこにでもいそうで、どこでも見たことがない。
 泥棒や強盗にしては目立ちすぎる服装だ、と考えたところで、「私が作りました」を思い出す。
「もしかして、あの事件の」と僕が言い終えないところで、「そうだ」と彼が肯定する。
「俺たちを、本当に、お前らが作ったのか……?」
「いや、そういう意味ではあいつはただ出荷判定をしただけで、一行たりともコードを書いてないから、「私が作りました」なんて嘘だよ。他にエンジニアはごまんといるが」
 そんなことはどうだっていい。わからないことが多すぎて、何から聞けばいいのかわからない。
「とりあえず、もう一回寝る」
「そうだな、一度寝て脳を整理するといい。起きるころには聞くことがまとまっているはずだ」
 こいつ、俺の考えていることがわかるのか?
「全部はわからない」
「急に返答されるとびっくりするからやめてくれ」

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