film.

だれも知らないまちへふたりで

タワレコにて

 今日はツいてない日だ。僕はエレベーターで顔をしかめる。十時半から始まる講習があるのに、十時半に目が覚めるし、借りようと思った漫画は、昨日は一巻から五巻まであったのに、今日は五巻しかなかった。Bluetoothのイヤホンの充電は電車に乗ってすぐ切れるし、コーヒーはこぼすしで、本当に今日はだめな日だ。
 軽い音が鳴ってドアが開く。エレベーターを待っていた男の人がいて、不機嫌そうな僕を見てなぜか頭を下げた。僕も思わず会釈する。何か後ろめたいことでもあったのだろうか。それとも上司のご機嫌取りに明け暮れる平社員が不機嫌な僕と上司を重ね合わせて反射的に謝ってしまったのだろうか、ああ悲しいかなサラリーマン。
 そんなことはどうでもいい。僕は前々から欲しかったCDを買いに、このタワーレコードに、来た。そして、目当てのCDを買って、僕は、塾に行く。それ以外何もしない。ツいてない日は予定通りのことができればいい。高望みなんてしちゃだめ。
 お目当てのCDを発見する。残り一枚。ツいてるのかツいてないのか。とにかく僕はそれを手に取って、レジで会計を済ませる。今日はたまたまポイント3倍デーらしくて、「ツいてる」なんて考えた自分がおかしくて、でもレジの店員さんには頭をぺこりと下げるだけ。

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死んだ人

ばーん!
 盆が床に打ち付けられる音が鳴り響く。学生たちはその音に驚き、狭い食堂内にほんの一瞬の静寂が訪れるが、何事もなかったように日常に戻っていく。
 私は床に散乱する豚カルビ丼と揚げだし豆腐を無視して、カウンター席に座る彼の元へ走り寄る。
「なんで?」
 困惑と驚きが入り混じった私の顔を、彼はじっと見つめている。
「なんで、って言われても」
「なんであなたがここにいるの?」
 彼がここにいるはずなんて万に一つもないのに。
 私は気が付かないうちに涙を流していた。あり得ない状況に理解が追いついていなかったからか、彼に再会できた喜びからか。もう二度と会えないと思っていたのだ。
 彼はころころと変わる私の表情を愉快そうに眺め、縁起臭い口ぶりで言った。

「死んだ人間が、生きてちゃおかしいかよ」

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パスポート

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 当機はまもなく着陸態勢に入ります、というアナウンスで僕は目を覚ます。窓の外を見ると眼下に薄っすらと街明かりが見えていて、夜になっていることに気がつく。
 今一度安全ベルトをお確かめください。無機質な客室乗務員の声、続いて、英語。
 若干の尿意を感じながら、もう着陸後までトイレに行くことはできないのでなるべく考えないようにする。一口分余っていたペットボトルの水を飲み干す。LCCにはもう何度も乗ったけれど、乗れて6,7時間で、それ以上乗ると息苦しくておかしくなってしまうかもしれない。
 今度もっと遠くへ行くときは、少しお金を出してちゃんと席幅がある飛行機に乗ろうと思う。

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