film.

だれも知らないまちへふたりで

間違っていない

休日の昼間に行くととんでもない数の人間がいる町は、22時を越えて訪れるとまるで違う様子になる。

凶の割合が多いことで有名な寺も、人気がなくぼんやりとライトに照らされているだけだ。そこに続く、誰もが幸せそうに窮屈に歩いていた道はすべてシャッターが下りていてホテルに帰る外国人やモノ好きな写真家が時折立ち止まり写真を撮っている。
雨から逃げてアーケードに入ると、一瞬ぞっとするぐらい静かになる。
ほとんどがバックパッカーや荷物の多いアジア人西洋人で、東南アジアの少し治安の悪いエリアの様相だった。たい焼き屋かコンビニしか空いておらず、シャッターが閉められた店の前には家のない人たちがダンボールやビニールを使って寝床を確保していた。
俺は商店街を抜けた先にあるドン・キホーテで6000円の買い物して、台風に備えている。本当に必要になるのかわからない道具やろうそくも、ないよりはマシだと思って買ったが、結局使わなかった。
黄色の大きなビニール袋に2本の指を引っ掛けて何も知らない顔をして商店街の真ん中を歩いた。

 

f:id:colorculator:20161003162418j:plain

 
考えないようにしないといけないこともある。
俺の帰り道が本当に最短で最適なのかわからなくなる。
この町は正直だった。観光と貧困がちょうど昼と夜で分かれていて、大人たちが安い酒を飲んでいる裏で誰かが捨てたスポーツ新聞を読んでいる人がいる。俺だけが知っているこの町の清濁に立ち止まりそうになるが、どうにもならないこともよくわかっている。
誰も間違っていないはずだ。みんなが答えを知っている。営業の無茶を鼻で笑う開発者、変な客をツイッターでさらすショップ店員、前科持ちのロケットベンチャー社長、YouTubeで活躍する芸人、不動産仲介業者、みんな答えを知っていて、自分だけが正しいことを言っている。
暗くも明るくもない狭くも広くもない大きくも小さくもないような、みんながまともになりたくて、誰もまともじゃないことを誇っている。誰かに救われたくて誰にもわかってもらいたくない。
袋とは逆の手に持った安酒を飲みほしてタクシーを拾って、泥酔する男女や赤いラーメン屋に入る中国人家族を横目に脱出する。スカイツリーが消えかかっている。