film.

だれも知らないまちへふたりで

私が作りました

・私が作りました
  
「私がつくりました」
 と、全世界の映画館のスクリーンを乗っ取って、「神」と名乗る何者かが言ったのが三日前のことだ。

 


 もちろん最初は誰も信用していなかった。タチの悪いいたずらだと思っていた。しかし、「全世界で」「同時に」「同じ言葉を」「その国の母国語で」言い放つという不可能を可能にしていることが、じわじわと世界中の人々にもしかしたら、という気持ちを抱かせていく。どんな宗教でも熱心な信者であればあるほどそれを信じるタイミングは早かった。
 極めつけにもう一つ、あり得ないことが起こっていた。同じスクリーンを見ていた人に「神」の姿を聞くと、全員違うものを答えるのだ。中肉中背の男性、ハゲ頭、ブロンズの女性、悪魔のような目つきの男、東洋の女性、ターバンを巻いた女性、等々……。
 そしてそのことがどうやら全世界で共通して起きているらしいことがわかると、いよいよ「神」は現実味を帯びてきて、その映像を見たことがある人はみんな、それを信じてしまっていた。
 話題になったとはいえ、その後は特に何が起きるということもなかった。テレビやインターネットでは、「ほとんど考えられない確率だが、全世界の人間が同時に幻覚を見た」ことが今のところ一番妥当な結論とされている。

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#疎通テスト
##成人男性 労働者 日本人
###期待値 %&歳時点で■■が原因で正しく死亡すること

「いや、そういう意味ではあいつはただ出荷判定をしただけで、一行たりともコードを書いてないから、「私が作りました」なんて嘘だよ」 
 とは訂正する。

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 「私が作りました事件」から一週間後、ある朝目覚めるとが僕の部屋に立っていた。基本的に目が覚めた時に知らない人が部屋にいることを想定していないので、僕は心臓が止まるぐらい驚き、出したことのない声が出て、危機回避行動をとるまでの間硬直していたが、泥棒や強盗なら既に殺されていたり何らかの危害を加えられていてもおかしくないような時間が経ってもその人物は何もせず、「ちょっと、びっくりさせてしまったな」と落ち着いて僕に話しかけたのだった。

「俺は、今日から死ぬまでお前の傍にずっといる」
 なんと、初対面の人間に寝起きでプロポーズされてしまった。

*** 
※出荷:あるソフトウェア製品を市場にリリースすること。
※出荷判定:あるソフトウェア製品の出荷基準を設定し、それを満たしているかどうかを判定すること。