film.

だれも知らないまちへふたりで

丘の上の館 #3

『よそ者が島原不動産に訪れたという話は町の人々に一気に広まった。』
『この町は観光者を大いに受け入れているものの、まだ狭く閉鎖的な町なのだ。口にこそしないが、後からやってきた人間に対し私たちの生活に踏み入れるな、と住人はみな思っている。現に、この町に越してきた者は奇妙な心地悪さを感じ、2年以内にまた引っ越してしまう。早い人で1か月というのもあった。
 そんな中でひときわ外様に厳しいのが、島原雅也だった。彼はこの町の唯一の不動産仲介業者であり、町のほぼすべての住人の物件を世話している。島原は町の住人以外を接客しようという気がまるでなく、店に来ても奥に入ったまま出てこない。一度訪れた移住希望者はだいたいそこで諦めるか、町の外にある業者を介しわずかに残っている島原不動産管轄外の物件に入居する。それも結局すぐに引っ越してしまうのだが。』

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『しかし町の住人がなぜよそ者の移住をここまで拒んでいるのかということについては、あまりわかっていない。村というには大きすぎるし、全然あったこともない人たちだってたくさん住んでいる。それに、経済が潤っているわけでもない。観光と農業でなんとかやっていけるだけの力はあるが、取り柄があるかと言われれば、そうでもない。
 そういう雰囲気の代表者がこの島原だった。彼は「三顧の礼」が口癖で、住人相手でさえも、場合によっては一度二度訪ねたところで何の反応もないこともある。それでも仕事はよく、希望通りの物件を見つけるまでは一歩も引かない。その姿勢によって、この究極的に面倒な男は町の人々の信頼を得ているのだ』
『そういうわけで、あの男も例にもれず接客を拒否されていたのだった。』