film.

だれも知らないまちへふたりで

脇からカブトムシおじさん⑤

5.脇からカブトムシおじさんはどこだ
 それから1か月以上経ったあと、脇からカブトムシの話をしている小学生は1人もいなかった。公園では完全に手のひらからクワガタおじさんが覇権を握っていて、みんなそこら中でクワガタを戦わせていた。
 あの時僕が予感した通り、脇からカブトムシおじさんはもう公園に現れなくなっていた。そんなの誰も気にしていなかった。苦労して手に入れるカブトムシより、楽に手に入るクワガタの方がよっぽど意味があるのだ。
 でも僕はどうしても脇からカブトムシおじさんのことが心配だった。だからその日僕は手のひらからクワガタおじさんの公園にはいかないで、脇からカブトムシおじさんの家に一人でこっそり突撃してみたのだ。
「すみませーん」コンコンとドアをノックする。
 しばらく待っても返事がなく、僕はもう一度、少し強めにドアをたたいた。「おじさーん」
 返事はなかった。居留守をしているのだろうか。それなら根くらべだと僕は脇からカブトムシおじさんの部屋のドアの間に座り込んだ。
 1時間も経つと日が落ちて周りの家の電気が付きだしたが、僕が待つ部屋に光がともっている様子はなかった。誰かが動いている音も聞こえない。脇からカブトムシおじさんは、どこかに行ってしまったのだろうか? 最後に公園で見たあの姿が忘れらない。
 そうこうしているうちに門限の時間になり、結局脇からカブトムシおじさんには会えないままで終わってしまった。明日も待て来てみようと思った。

 しかし、次の日もまた次の日も、脇からカブトムシおじさんに会えることはなかった。不安が確信に変わる。
 脇からカブトムシおじさんはどこかへ行ってしまったのだ。