film.

だれも知らないまちへふたりで

星間はがき

『拝啓 渚さま
 寒気のきびしい日が続いていますが、お変わりありませんか。

 と少し恰好つけて始めてみたけど、そっちの季節はわからないね。
 さらにこっちはずっと冬なので、寒気のきびしい日がずっと続いているらしいです。私はドームの外に出ないからわからないけど。
 こうして移ってみると、日本はとても自然豊かな国だったことを実感しています。
 この星の平均気温は-55度なんだって。居住ドーム内は空間管理がしっかりされているから特に困ることはないけど、仕事で外に出るお父さんとかは大変そうにしてます。
 「梯子を登っている最中に手と梯子がくっついちゃってさ」って。想像できないよね。

 

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 さて、私はというと、いろいろ手続きを済ませて、学校に行き始めています。
 こっちでも生活自体は変わらないし、毎朝遅刻しないように大きな音の目覚ましを使っているのも変わりません。
 あんなに嫌がってた移星も、住めば都だね。
 一緒に移ってきたみんなも楽しんでるよ。最初は寂しそうにしてたけど、もうそうでもないみたい。
 でもやっぱりアレルギーを持っている子も何人かいて、大変なことになってたりもします。「無菌室」っていう地球環境を再現した部屋があって、そこで暮らしているんだって。たまにすごくかっこいい宇宙服を着て一緒に授業を受けたりするんだけど、中は死ぬほど暑いらしいよ。
 それ以外のみんなは、この手紙が渚に届くころにはとっくに順応していて、普通に生活を送っていると思います。

 ほんとはメール送るねって話だったんだけど、この前モールをぶらぶらしてたらこのレターセットを見つけてね。
 調べたら惑星間ハガキっていうのもあるみたいで、思い切って手紙を書いてみました。
 郵便局員さんに、惑星間の郵便はどれぐらいかかるんですかって聞いたら、わかりませんって。
 まず他惑星に届けたいものが一定量集まるまで出荷できないこと、出荷できたとしても宇宙空間でトラブルがなく移動できたことはほとんどないので想定よりも時間がかかることがあるから何とも言えないらしいです。
 少なくともここから地球までは3年はかかるから、それ以上かかる、ということまでわかりました。
 3年もあれば私たちはもう成人してるし、この手紙の内容もとっくに忘れちゃってるかもね。
 すごくロマンチックだと思わない?
 タイムカプセルみたい。

 この星に来て、私にも変化がありました。
 地球にいたころに比べて身長が、なんと5センチも伸びました!
 周りのみんなも急成長しててびっくりしてる。星の自転速度とか気圧が影響してるらしいけど、詳しいことはわからないんだって。特に中高生は成長速度がかなり速まってて、ニュースで見たんだけどもう15センチぐらい身長が高くなった人もいるらしいよ。
 体つきが急に大人になってみんななんか変な感じです。

 そうそう、この星に来てすぐ、武田くんに告白されちゃいました。
 「星が変わっても好きだから、この気持ちは本物だ」ってかゆいこと言ってて笑っちゃったんだけど、付き合うことになりました。渚もはやく彼氏作りな~。
 この手紙が届くころまで続いてたらいいなと思います。それまで渚には黙っていようかな。

 この手紙がいつ届くかわからないけど、渚がある日目を覚まして枕もとにこの手紙があったら素敵だね。そうなることを祈ってます。
 早く病気が治るといいね。

 はるかかなたの惑星より愛をこめて
 七海』