こんな街抜け出してしまおうよ

だれも知らないまちへふたりで

脇からカブトムシおじさん④

4.脇からカブトムシおじさんの消失
 次の日、公園は大盛況だった。瞬く間に広がった手のひらからクワガタおじさんのうわさは地域の小学生を公園を駆り立てた。脇からカブトムシおじさんとの約束が面倒になってカブトムシをあきらめた生徒や、そもそもカブトムシやクワガタに興味のない生徒までもがその斬新さに惹かれとりあえず一目見ようと集った。僕らもいつものように公園に訪れた。
 しかし僕の心は優れなかった。
 いつもの公園のいつものあの場所に、脇からカブトムシおじさんはいなかったのだ。今日は月曜日だったので、約束の通りいないだけなのだ。ただ僕は、あのベンチに、二度と脇からカブトムシおじさんが現れないような気がしてならなかった。
 脇からカブトムシおじさんは僕たちにさまざまなことを教えてくれた。カブトムシを生み出すおじさんというだけではなかった。諦めること、挑戦すること、成功の前には困難が待ち受けていること、タイミングが大事だということ、欲を張ると痛い目を見るということ。小学生の僕たちは無意識にそのことを学んでいたはずなのだ。
 無条件に、そして無限にクワガタを生み続ける手のひらからクワガタおじさんを横目に、僕は胸が痛むのを感じていた。