こんな街抜け出してしまおうよ

だれも知らないまちへふたりで

脇からカブトムシおじさん②

2.僕らと脇からカブトムシおじさんの距離
 僕たちと脇からカブトムシおじさんとの間には、3つの約束があった。
 その1。脇からカブトムシおじさんは土日にしか現れない。土日の昼頃にある公園に行くと脇からカブトムシおじさんに会えるのだ。勇者たちはその時間に公園に集い、マスクやら息を止めるやらで対策をしながらカブトムシを採集していた。時々、気分がいいときは土日の夕方の公園以外でも出してくれたりした。
 その2。脇からカブトムシおじさんの日常や詳細な個人の情報について何も詮索しないこと。一度脇からカブトムシおじさんの後をつけ家を訪ねていろいろ聞き出そうとした少年たちがいた。彼らは何も聞けなかった上に、二度とカブトムシを捕まえさせてもらえない罰も与えられた。彼らは僕らに何も言わなかった。好奇心で踏み込んだ結果がこれである、ということをのみを伝えていた。そういうわけで、僕たちは脇からカブトムシおじさんの本名すら知らないままだ。
 その3。カブトムシはちゃんと育てること。しかし、この約束はあまりちゃんと守られていなかったようだ。なぜならカブトムシを捕まえた後は脇からカブトムシおじさんが関与できないのを少年たちは知っているからだ。脇からカブトムシおじさんもどうしようもないことをわかっている。同じ少年が毎週捕りにきているのを見るたびに脇からカブトムシおじさんは悲しい顔をしていた。口約束の弱さと小学生の悪意なき無邪気さだった。
 以上三つの約束を以て、僕たちは脇からカブトムシおじさんと関わりあっていた。小学生ながら絶妙な距離を保っていたと思う。時々「あの約束めんどくせー」などと愚痴を漏らすものの、土曜日になれば笑顔で公園に向かう純粋な小学生たちだった。カブトムシの採取を通じて、僕たちは「約束を守る」ことの大切さを学んだ。変な先生よりはよっぽどいろいろなことを教えてくれただろう。

 しかし。
 そんな脇からカブトムシおじさんと僕たちのすばらしい日々にも、終わりが来る。