film.

だれも知らないまちへふたりで

書き物

いつまでも生きている俺

「うっ、うっ……」「何がそんなに悲しんだい」 男がスマートフォンを見て泣いている。俺からは見えない角度で何かを読んでいた。

私が作りました #2

「……どちら様ですか?」 プロポーズから数十秒の沈黙ののち、なんとかひねり出したのは、蚊の鳴くような声でまっとうな疑問。「どちら様、そうだな……」少し考えて、「一番わかりやすい形で答えるなら、エンジニアかな」「エンジニア?」「そう、エンジニア。…

夜を走る

・夜を走る なんてことない平日の最終電車に乗って、明日の仕事について思いをはせながら、SNSに目を滑らせている。耳にはイヤホンを差し込んで、流行りのバンドを聴いていて、完全に外の世界との接続を断っている。池袋から新宿までを貫いて、高円寺、荻久…

私が作りました

・私が作りました 「私がつくりました」 と、全世界の映画館のスクリーンを乗っ取って、「神」と名乗る何者かが言ったのが三日前のことだ。

丘の上の館 #3

『よそ者が島原不動産に訪れたという話は町の人々に一気に広まった。』『この町は観光者を大いに受け入れているものの、まだ狭く閉鎖的な町なのだ。口にこそしないが、後からやってきた人間に対し私たちの生活に踏み入れるな、と住人はみな思っている。現に…

タワレコにて

今日はツいてない日だ。僕はエレベーターで顔をしかめる。十時半から始まる講習があるのに、十時半に目が覚めるし、借りようと思った漫画は、昨日は一巻から五巻まであったのに、今日は五巻しかなかった。Bluetoothのイヤホンの充電は電車に乗ってすぐ切れる…

死んだ人

ばーん! 盆が床に打ち付けられる音が鳴り響く。学生たちはその音に驚き、狭い食堂内にほんの一瞬の静寂が訪れるが、何事もなかったように日常に戻っていく。 私は床に散乱する豚カルビ丼と揚げだし豆腐を無視して、カウンター席に座る彼の元へ走り寄る。「…

パスポート

当機はまもなく着陸態勢に入ります、というアナウンスで僕は目を覚ます。窓の外を見ると眼下に薄っすらと街明かりが見えていて、夜になっていることに気がつく。 今一度安全ベルトをお確かめください。無機質な客室乗務員の声、続いて、英語。 若干の尿意を…

正しい恋愛

「言いたいことがあるんだよ」 と、彼女が言った瞬間、僕は理解して、涙をぐっとこらえた。 今の今まで読んでいた小説の内容が途端に入ってこなくなり、鼓動が上がるのを感じる。隣の席では難しい顔をした女性が数字がたくさん書かれたエクセルとにらめっこ…

安心な僕らは風呂で寝ようぜ

今日、なんとなく風呂を沸かして、何をするでもなくぼーっと浸かっているとまどろんできて、気が付いたらしばらく眠ってしまっていた。 目を覚ますと首から下が溶けかかっていた。 俺はこのまま死んでしまうのだなと思ってあきらめてもう一度目を閉じたのだ…

街並み

高さ何メートルから落とせば愛の塊は砕けるのか。何気圧で涙は分散されるのか。そもそも流すべき涙などあるのか。吐き出すべき感情などあるのか!ないとしたら俺は何のためにこれを書いているのか。ミャンマーの荒野を歩く少女の心とシンクロして、その風景…

朝電車に乗ったら

朝電車に乗ったら 毎日ほぼ同じ時間に家を出て、毎日ほぼ同じタイミングですれ違うサラリーマンを意識しないところで覚えてしまっている。信号の変わるタイミングもなんとなく知っているので、このぐらいの速度で歩いていれば点滅中にわたり終えられるだろう…

星間はがき

『拝啓 渚さま 寒気のきびしい日が続いていますが、お変わりありませんか。 と少し恰好つけて始めてみたけど、そっちの季節はわからないね。 さらにこっちはずっと冬なので、寒気のきびしい日がずっと続いているらしいです。私はドームの外に出ないからわか…

善なるひき逃げ

右に曲がるべきだった。と23時のニュース番組で、ゲストのどこそこ大学の教授が言った。いやいや、そっちには小学生が2人もいたんですよ!と返すのは、大御所芸能人。 画面下部にはテロップで「自動運転による死亡事故 人工知能の正義とは」と表示されている…

行列のできる

今日はお昼に行こうと外に出たら強いにわか雨が降っていて、傘を持っていなかったので5分ほど行ったところにあるカレー屋にすらいけず、いくつかオフィスビルを渡って屋内にあるところで済ませようと思ったのだけど、飲食店街に着いた僕が見たのはそれはそれ…

ひまわりの海

・ひまわりの海 寒いよね。 まだ大丈夫だよ。 でもさ、こうやって、「寒いね」って言って「まだ大丈夫だよ」って返ってくるような関係はあたたかいよね。 くせー。今寒くなったから早く帰ろうよ。 寒すぎる。いっそ南半球に飛んでいっちゃいたいぐらい。 な…

エスカレーターにモノ申す

エスカレーター、あれはよくない。地域によって右寄りだの左寄りだのルールが決まっていてややこしい。さらにこのことばは政治的な意味を含んでいるようにもとれる。「大阪は右寄りなんだって」などと言えば、まるで大阪が街を上げて右翼なのかのように聞こ…

The last man

・The last man 「これ、目にいいんだって」 昼休み、食堂で食事中の私の隣に座った近藤が差し出したのは一枚のDVDだ。ジャケットには海を背に仁王立ちをして いる外国人風の男の風景が載っていて、目に良さそうには見えない。タイトルは「The last man」「…

お菓子の宇宙船

・お菓子の宇宙船 ここはお菓子の宇宙船。 船体はチョコレート、両翼はクッキー。スポンジの椅子にキャンディーの操縦桿。モニターは金平糖でできていて、スイッチはカラフルなラムネ。エンジンはコーラと甘いオレンジジュース。もちろん、パイロットの宇宙…

自動

あなたはメガネを食べたことがあるだろうか。俺はない。メガネは食べ物ではないからだ。しかしある種の人々は酒に酔うとメガネを醤油につけたりマドラー代わりにしてカクテルを混ぜたりするのだ。これはメガネを何かしらの食べ物、あるいは食事に必要なもの…

鼻通りがよくなった男

こんにちは。なんと、2016年に入り初の更新です。僕は何をしていたのか?そんなことはどうでもいいのですが、最近花粉が徐々に舞い始めているように思います。僕はほぼすべての鼻や目にくるアレルゲンに反応してしまう超敏感体質なことが先日やっと判明…

小話を書いています。

「海」砂糖を入れようとして間違えてコーヒーに塩を入れてしまった息子が、それを飲んで「しょっぱい」と苦い顔をする。もう一度確認するように一口飲み、「やっぱりしょっぱい!」と声をあげた。砂糖と塩の容器が似ている上に並んでいたことも重なり、普段…

グッドモーニング腐乱死体

目覚めるとベッドの隣で死体が転がっていた。見てすぐにわかったわけじゃないけれど、声をかけても反応しなかったので、体に触れてみると冷たかったので、やっぱり死体だったのだろう。一瞬顔が引きつったけどまあこういうこともあるだろうと考え直して、私…

夜をゆく

夜行バスにはさまざまな人が乗っている。くたびれたサラリーマン、旅行らしい学生の集団、就活生、帰省する人、目的がよくわからない人、作業着のまま乗っている人。親より年上の人が乗っているのを見ると、どこに向かうのだろうかと少し疑問に思う。 昨日乗…

心が晴れないときのための自動筆記

かなしみは続く月がのぼる 暗闇でくねくねと裸の女 目が覚めて行先を考えてる 隣に女満足裸の女 遠くに聞こえるうるさいバイクをとめるすべを知らない ことばでは聞こえない音がことばになりことばが音になる 女の裸が音になりことばになりかなしみが聴き取…

スキマ時間に読める即興小説

30分とか1時間とかで書いた即興小説です。暇で暇で仕方ないとき、読んでいただければ幸いです。 「ずっとこのまま」 - 即興小説トレーニング夕日をバックに白衣の男女が雑談をするお話。 「二丁目の神様」 - 即興小説トレーニング 誰かがよりどころとしてい…

※ただし正直者は除く。

嘘はついちゃだめだよって言われてから僕は嘘をつかないように生きてきたのだけれど、ある日たろうちゃんに言われた。「嘘をついちゃいけないだなんて、嘘だよ」って。「嘘ついてもいいの?」って僕が聞いたら、「構わないよ。どんどんつけばいい」「それは…

このブログについて

このブログについて、と述べるとき、私はこのブログについて述べることを定められる。他のどのブログでもなく、このブログについて、私は述べなければならないのだ。しかし私がこのブログについてと述べるとき、このブログがどのブログであるかは明言してい…

ツッコミがヤバい漫才コンビ

こんばんは。今日はツッコミがヤバい漫才師を考えたので、披露します。ボケ「いやー、アツはナツいねー」ツッコミ「夏は暑いねだろ! ていうか、そもそも暑い季節を夏と呼んでいるのだから、『夏は暑い』というのはトートロジーでしかないんだよ! と、いう…

地図だけど質問ある?

「何これ?」「地図」「見ればわかる。何で急に?」「そのペケがついてるところあるじゃん」「うん」「行ってみればいいんじゃないの」「また今度ね」「うん」 彼は私を近くの砂浜に呼んだ。深夜二時のことである。私は重たいまぶたを必死でこじ開けて何とか…